結腸過長症と切除手術

腸が長い

2015年6月に人生初の入院をするまでは、自分はいたって健康だと思っていた。健康診断で何年も胆嚢ポリープの経過観察が続いたが、ポリープは大きくなる素振りを見せず、問題にはならなかった。ただ、お尻からカメラを入れる検査(大腸内視鏡検査)の度に、腸が長いと先生から言われていた。腸が長くて内視鏡の長さが足りず、最後(盲腸)まで届かないらしい。それが一体何を意味しているのか、誰も教えてくれなかった。日本人は腸が長いという嘘かホントか分からない話もあり、その日本人の平均よりもさらに自分は長いのか、それって自慢して良いの?とか、ともかく、あまり深く考えていなかった。

突然訪れた腸閉塞

そして2015年6月。前日にIKEAで食べたどこかの国のカレーが合わなかったのか、便意があるのに出ない。ガスも出ない。普段から便秘傾向なので別に気にする必要はないのかもしれないが、何か、いつもと違う妙な感じだ。お腹に力を入れても、その圧力が全く肛門に届かない。下痢した時の周期的な痛みは、弱いけれど夜中に目を覚ました時からあった。不安が徐々に大きくなって、日曜日に空いている胃腸科の病院を調べて、隣町まで車を飛ばした。

即、入院と言われた。そうとは思っていなかったので、ちょっと衝撃だった。えっ、入院なの?.. カミさんに電話を入れると、やはりびっくりしていた。腸閉塞の症状が疑われる場合、まずは食べることを止めなくてはならない。だよねぇ。出ないんだから食べてはいけないのだ。食べないと生きていけないので点滴が必要になる。すなわち、入院しなくてはならない。腸閉塞は聴診器をあてるとすぐに分かるそうだ。土管の中で水滴が落ちると「カーン」と響く。あの音がする。腸がどこかで詰まるとガスが逃げ場をなくしてたまり、土管のようになるのだろう。

腸捻転で腸の壊死が見られる場合等は緊急手術だし、腸に溜まった内容物が多い場合には、鼻から管(イレウス管)を通してそれを吸い出す必要があるが、私の場合はそのどちらでもなく、絶食して胃腸が落ち着いてから、お尻からカメラを入れて、捻転状態をソフトに戻していく(内視鏡的整復術)。ただ、一度捻転を起こした部分は、再発しやすい。後に、このことを思い知らされる。

この内視鏡検査をして頂いた医師が、検査中に「いつからこんな腸なんですか?」と聞いてきた。「こんなってどんな?」と聞き返したが答えはなかった。今までの内視鏡検査と同じで、カメラを入れても入れても奥に行かず、長時間検査が進まずにイライラしていたのだろう。

捻転が治って便が出ても、そこから緩やかに食事を戻していくので退院にはさらに時間が掛かる。入院は2周間に及んだ。初めての入院、初日は痛みが少しあったが、あとは穏やかな日々であった。

再発

平穏な日々は半年で終わった。2015年12月、トイレであの時の感じを再び味わう。その日もまた日曜日であったが、夕食を抜いて一晩様子を見て、翌朝間違いないと確信した。前回は隣町の病院で入院となり、自宅から遠くて少々不便だったので、今回は近くの総合病院の消化器内科に行った。2回目なので何の戸惑いもなく入院した。

この時、この病院の病棟は拡張工事を終えたばかりで、すべてが新しく、入院生活は快適だった。前回が古い比較的規模の小さなの病院だったので、違いは大きかった。入院もいいものだなと不覚にも思った。

この入院で、自分の体に初めて聞く名前の症状があることが分かった。「S状結腸過長症」。腸が長いのは自慢することではなく、ある種の病気であった。早く言ってよ。大腸は、盲腸、結腸、直腸からなるが、結腸はさらに上行、横行、下行、S状に分かれる。この直腸の手前のS状結腸が膨らんで長くなっているらしい。そして、この伸びたS状結腸が軸上捻転を起こして、2回の腸閉塞となったようだ。

ここで内視鏡検査を担当して頂いた医師に、「あーこれ80歳の腸だね。もう全然機能してないよ。毎日下剤飲むしかないね。」と言われた。ショックだった。そうなのか。そんな腸なのか。「女性には多いよ。」とも言っていた。腸は本来、通るものがない時は縮んでいて、ものが流れてくると肛門の方へ送り出す動きをする。膨張して伸びた腸は土管のように広がっていて、もはや送り出す動きができず、溜まったものが押し出されるのみとなる。大腸は便の水分を吸収する働きがあるので、たまりすぎると便の水分がなくなって固くなる。便秘気味で出るときはコロコロな便なのはこういう仕組みなのかと納得がいった。

院長先生に腸が長い原因を聞いたが、いつから長いかはタイムマシンがないとわからいねと言われた。

この時も、内視鏡的整復術で症状が回復し、2週間で退院となった。大建中湯という漢方を処方された。一生これ飲むの?と思ったが、飲んでいれば再発しないのならまぁ仕方ないだろう。

再再発と入院

2016年3月、またまた来た。間隔が6ヶ月から3ヶ月に縮まった。社長や上司には「体を優先してください。」と言われてたが、流石に3回めの入院となると、もうこれはどうにか手を打たないといけない。

症状はいつものように回復したが、院長と話をして、長い腸を切ってもらうことにした。切ることに関しては、回診の主治医にも何回か聞いてみたが、癒着等のリスクもあるし、あまり積極的に勧める風ではなかった。院長との話でも、どちらかと言えばこちらが希望したという感じであった。入院は3回目だが手術は初めてだ。取り出すものが大きいので、腹腔鏡ではなく開腹になるということだった。すぐにはスケジュールが取れず、3週間後になるので一旦退院し、手術前にあらためて入院し直すことにした。おかげで花見のお出かけと、妻の誕生日を祝うことができた。

手術

2016年4月に再度入院し、3日後の手術日を迎えた。9時30から開始し、12時20分終了。3時間弱、結構長い。ヘソの3センチ上からヘソを通って11センチ程切った。ヘソは避けて切るのかと思ったら、ヘソのど真ん中を切っていた。術後、カミさんは切ったS状結腸を見せてもらったそうだ。ステンレス?のお盆に乗った切除部分は約40cm。これは縮んだ状態であって、お腹の中で膨らんだ状態ならもっと長いそうだ。別件で通院しした際に、ガスで腹腔いっぱいに広がったS状結腸を見たことがある。あの時はS状結腸だとは思わなかったが、今ならそれがそうだったと分かる。一部、白い筋状の跡が付いていて、院長はこれが恐らく捻転した部分だろうと言っていたそうだ。それから、盲腸が赤くなって悪さしそうだったからついでに切ったらしい。せっかくの開腹手術だから、切ってもらってよかった。これで、もう盲腸で病院のお世話になる心配はない。

初めての手術は、痛くて辛かった。痰が絡んで、咳をする度にお腹の傷が爆弾が破裂したかのように痛む。手術の翌日には歩いて見ましょうと言われてベッドから降りた途端、立ちくらみがして倒れた。しかし、日が立つにつれて痛みは弱くなり、退院の日を待ちわびた。

その後

あれから早いもので5年が経とうとしている。術後、もちろん、腸閉塞の再発はない。それどころか、いつも便秘気味だったのが嘘のように、毎日快便である。実は退院にあたって、下剤を出しますと言われたのだが、まっぴら御免と断った。漢方(大建中湯)も、もう飲んではおらず、食事制限もない。快調そのもので、どうしてもっと早く切らなかったのかとも思うが、腸閉塞を3回やったからこその結果であり、この経緯に感謝している。便秘気味で結腸過長症というだけで、切れるものではないのでね。

手術をしたのが52歳の時であった。もう57歳。これからもいろいろとあるだろうが、このラッキーを引き続き継続していきたい。

最後に、入院中はほぼ毎日来てくれたカミさんと、病院の先生、看護師のみなさんに、あらためまして感謝申し上げます。